――良い音を作るための爪の整え方

クラシックギターを始めたばかりの方から、よくこんな質問をいただきます。
筆者の場合、その際はこのように返答します。

「右手の爪は、どのくらい伸ばせばいいですか?」 → 人によります。

「爪の形に正解はありますか?」 → ないです。

「爪をきれいに磨いたほうが音は良くなりますか?」 → そもそも磨くのは必須です。

身も蓋もないように感じられてしまうかもしれませんが、実際のところそうなので詳しくお答えするのが難しいのです。
爪の性質や生え方、手の形、右手のフォーム、タッチの速さと方向、奏者自身が求めている音色はそれぞれ違うためです。

そのため同じギター、同じ弦を使っていても、爪の長さや形、表面の滑らかさ、そして弦への当て方によって、音の立ち上がりや明るさ、滑らかさは変わります。実際、爪の状態は音色に直接影響する重要な要素ですし、実践的な演奏ではその爪を細部にまでコントロールする必要があります。

ですので、
「爪の形に正解はありますか?」 → ないです。
と答えましたが、一人一人に異なった正解は存在すると考えています。
ですが全てにおいて完璧な爪のシェイプがあるという意味ではなく、本人の弾き方に合うという意味です。
というのも、演奏においては体全体のフォームや筋肉の使い方、求める音楽性がマダラ模様のように影響しあっています。

例えば、
あまりアポヤンドを使用しない演奏を好む奏者であるならば、弦に対して爪の抜けに特化する必要はないですし、かえってアルアイレの際に爪の抜けが良すぎてしっかり弦を弾く方向のコントロールがしにくくなってしまうこともあるでしょう。
あまりアポヤンドを使用しないのであれば、アポヤンドの際だけ右手の角度や楽器の角度で調整してしまえば良いのです。

逆もまた然りですし、音の立ち上がりや基準とするダイナミクスなど、自分が最もよく使うタッチに特化した爪のシェイプがその人の正解になるのだと考えます。

では実際によくある疑問なども交えて爪について考えていきましょう。

1.そもそも爪とは

『ギターを弾くんだからなんとなく爪を伸ばしてなんとなく整えている』
という方が多すぎます。

そもそもギター演奏における爪とは何なのかを意識して考えてみましょう。
爪とは楽器の一部です。ヴァイオリンやチェロなどの擦弦楽器であれば弓打楽器であればマレットやスティックの役割をギターでは爪が果たしています。

そう考えると漠然とただ整えるだけではいけない気がしてきませんか?

弓であればどれくらいの速さで弓を動かすのか、どれくらい弓の量を使うのか、根本なのか先なのか。
スティックやマレットであれば材質も大きく異なることが視覚的にも分かりやすいです。

ギター演奏における爪では操作する範囲(爪の先)が小さく、あまりにも一瞬で操作が完了してしまうため、気付きにくいポイントではありますが、これからは意識して考えてみてください。

自分の爪が、『どのように』『どんな速度で』『どれくらいの量で』『爪のどの位置で』弦にアプローチしているのかをしっかりイメージすることが重要です。

2.爪の形は「弦が滑らかに抜ける」ことを意識する

爪を整えるときに最も重要なのは、弦が爪に引っ掛からず、滑らかに離れていくことです。
右手の指で弦を弾くとき、一般的にはまず指先の肉が弦に触れ、その後に爪が弦をリリースします。

このとき爪の角が立っていたり、表面が粗かったりすると、弦が引っ掛かってしまい、

「カチッ」
「ザラッ」
「ジャリッ」

といった余計な音が出やすくなります。

弦が爪の上を滑らかに通過できるように整えると、余計なノイズが乗りづらくなります。

そこが爪を整える出発点です。
前の項でもお話したように爪は楽器の一部
ノイズが乗らないというのは楽器として当然の状態なので、ここから自分の欲しい機能を爪に持たせていくイメージです。

そのため、爪を削ることは単なる「爪のお手入れ」ではなく、音作りの一環なのです。

例えば、
もう少しリリースまでに時間が欲しいのであれば爪の長さを伸ばす、もしくは整える角度を変える。
もっと音量が欲しいのであれば爪の抜けを改善してタッチにかかる速度を上げ、一音の発音に使う爪の量を増やす。
など、自分の爪が、どのように弦にアプローチしているのかをしっかりイメージ【スローモーションで】
することが重要です。

3.爪の形に「絶対的な正解」はない

プロのギタリストの爪を見てみると、実は全員が同じ形をしているわけではありません。
指先の輪郭に沿って丸く整える人もいれば、片側をやや長く残した(多くは小指側)の形にする人もいます。

片側を残す形では、弦が爪の斜面を滑ることで、よりスムーズなリリースを狙い爪を使う量を増やす(爪の小指側まで弦が当たり続ける)考え方があります。

しかし、「プロがこの形だから、自分も同じにすればいい」と考えるのは間違いです。
爪の形は、指の形や爪のカーブ、弦への進入角度、右手のフォームによって変わります。

形そのものを真似することも経験として大切ですが、考えなしに真似をするのではなく、

「どのような機能をもたせた爪なのか」「どのように手の形に合わせているのか」「仮に爪の形を真似したら自分のフォームではどのように機能するか」

を考えて自分の爪の整え方に活かしましょう。

4.長ければいいというわけではない

クラシックギターというと、「右手の爪を長く伸ばす」というイメージを持っている方も多いでしょう。
しかし、実際には長ければ長いほど良いわけではありません

爪が長すぎると、弦に引っ掛かりやすくなったり、小回りが利かずに指の動きが不自然になったりします。反対に短すぎると、爪を使った明瞭な発音が得にくくなる場合があります。

まずは、指先から爪がほんの少し出る程度をひとつの目安として考えてみるとよいでしょう。ただし、適切な長さには個人差があります。指の形、爪の生え方、右手の角度、タッチ、求める音色によって適した長さは変わります。

つまり、「何mmが正解」ではなく、「自分の弾き方や求める音楽性に無理なく合っているか」が重要です。

5.「爪」だけを変えても音は完成しない

爪を整えることはそう単純ではありません。
「爪を整える」ことを言いかえると「音色を整える」こととも言えます。
今までの記事を読んでくださった方はここでピンときたかもしれません。
爪の形や整え方も音色や音楽を構築するために必要な膨大な要素の一つでしかありません。
そのため、爪の形が整っていてもコントロールが不十分であればそれは機能していないのと同じです。

音色を決めるのは爪だけではなく、

  • 右手のフォーム
  • 指が弦に入る角度
  • タッチの強さ
  • 弦に触れる位置
  • 右手を構える位置
  • 爪と指先の肉が弦に触れる割合
  • 左手の押さえる力
  • ヴィブラートの操作

など、さまざまな要素が関係しています。

例えば、同じ爪でもブリッジ寄りで弾けば明るく硬質な音になり、指板寄りで弾けば柔らかく丸い音になります。

つまり、爪と右手の使い方、左手での操作、フォーム、求めている表現やダイナミクスを全てセットで考える必要があります。

これらを爪だけで解決することは不可能なのがご理解いただけるかと思います。 

求める音楽を実現するために、自分のフォームや筋肉の使い方、演奏スタイルに幅広く対応できるような爪の形状を求めましょう。
見た目がきれいに整っている必要はありません。
事実、筆者は人差し指の爪は見た目ではいびつですが、強くて速い音色の実現のためにそのような形に落ち着きました。

このことからも、すべての指で同じ形にする必要もないことがお分かりいただけるかと思います。

そう。自由すぎです。

自由度が高すぎるため皆さん迷ってしまうのだと思います。

ですので一度自分の理想的な機能をイメージした爪の形で一定期間固定して演奏することをお勧めします。

そこから、

「このタッチの角度は引っ掛かって弾きにくいな」→「よく使う音色、表現だし爪の形を変えてみる」 or 「この部分でしか使わない表現だしそのタッチの時はフォームで調整するしよう」

といった感じで微調整や表現の修正を積み重ねているうちに自分に合った自分の表現のための理想的な爪の形のイメージが明確になってくるはずです。

あまりコロコロ変えずに長いスパンで見て考えてください。

6.爪を削ったら、必ずギターを弾いて確認する

爪を整えるときにありがちな失敗が、「一度に削りすぎる」ことです。

少しだけ削ったつもりでも、実際に弾いてみると感触が大きく変わることがよくあります。

自分の理想の爪が明確でないときは、少し削る → 弾く → 必要ならもう少し削るようにして適宜確認を取りながら大まかに形を整えていきましょう。面倒くさがってはいけません。すべては音楽のためです。

特に、

  • 開放弦をゆっくり弾く
  • アルペジオを弾く
  • スケールを弾く
  • アポヤンドを弾く
  • アルアイレを弾く

など、普段使うさまざまな奏法で確認してみましょう。

ひとつの奏法では良くても、別の奏法(特にアルアイレとアポヤンドの切り替え)では弾きにくくなることがあります。爪を整えるときには、実際の演奏で総合的に確認することが大切です。

7.「理想的な爪」とは、自分が完璧にコントロールできる爪

誰にとっても同じ「理想の爪」があるわけではありません。なんせ自由過ぎるんですから。

必要なのは、

自分の手に合っていること。
弦に自然に触れられること。
余計なノイズが出ないこと。
自分が出したい音をコントロールできること。

「先生の爪と同じ形にする」
「プロと同じ長さにする」
それらは一つの経験として重要ではありますが、多くの場合本人と合致することはありません。


「この形、この長さなら、自分は一番自然に良い音を出せる」

という状態を見つけることのほうが何倍も重要なのです。

爪を削る作業は、単なるメンテナンスではありません。
少し形を変えて弾いてみる音がどう変わったかを聴く弾きやすさがどう変わったかなぜそうなるのかを考える。

そして、もう一度調整する。

これを繰り返していくと、自分の音に対する感覚も少しずつ鋭くなっていきます。

クラシックギターの上達というと、スケールやアルペジオ、難しい曲の練習を思い浮かべるかもしれません。

しかし、「自分が今どんな音を出しているのかを聴くこと」も、上達には欠かせない練習です。
何なら最も重要な練習だと筆者は考えています。

その意味では、爪を整えることがすでに演奏となっているといえます。

まずはいつもの爪を眺めてみてください。
その爪は自分にとって理想的ですか?
どんな機能を持たせてありますか?

そして次にギターを弾いたとき、音だけではなく、「弦が爪からどう離れているのか」を意識してイメージしてみる。

そこから、自分にとっての「良い爪探し」が始まります。